うつ病を体から治すアプローチは副腎疲労症候群にも有効かもしれない
今回の記事では、最近読んだ『うつは「体」から治せる!』(BABジャパン)という本がなかなか興味深く、副腎疲労症候群の改善にも役立ちそうだったため、特に印象に残った内容や関係しそうなトピックについて取り上げます。心身を統合的に捉え、身体的アプローチである整体のみならず、トラウマ療法やソマティック心理学などを含めた幅広い知見から書かれており、一読の価値アリです。
- 作者: 鈴木直人
- 出版社/メーカー: BABジャパン
- 発売日: 2017/08/24
- メディア: 単行本
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この本は、うつ・自律神経失調症専門の整体である健療院グループの総院長の方が書かれた本です。健療院グループのサイトについては以前「副腎疲労症候群を知るためのウェブサイト、本のまとめ」でも取り上げましたが、多くの情報を発信されており大変役立ちます。
1. うつになる体の特徴
うつになる体の特徴として以下の三つがあげられています。
- 筋肉の緊張ー怒りなどの感情を抑えることによる緊張と、ストレス=生命の危機と感じることによる自律神経的な緊張の二つの原因がある
- 頭蓋骨のゆがみー頭蓋骨がゆがんでいるため脳脊髄液がうまく循環しなくなり、脳の機能が低下しうつになりやすくなる
- 背骨・骨盤のゆがみー骨盤や背骨がゆがむと、それに対応するように頭蓋骨までゆがむ
どれも副腎疲労症候群の専門病院などではほとんど触れられない内容です。食事制限やサプリメント摂取ではなかなか症状が改善しないのは、こういった体へのアプローチが不足しているからかもしれません。
さらに、この三つの特徴が生まれる背景には、エネルギーの循環の不備である「エネルギーの生産不足」、「エネルギーの循環の不足」、「エネルギーを使うことの不足」の三つがあるといいます。それぞれ以下のように書かれています。
エネルギーの生産不足
うつの方は栄養素の不足・呼吸の不足・自律神経の乱れなどでエネルギーの生産が低下しています。
副腎疲労症候群の場合、このうち「栄養素の不足」には、食事制限や栄養療法、サプリメント摂取などによって改善策を取ることが多いですし、リーキーガット症候群やカンジダ菌は、この栄養素の不足を引き起こす要因の一つと考えられます。しかし「呼吸の不足」、「自律神経」へのアプローチはいかがでしょうか。ほとんどなされていないのではないでしょうか。
エネルギーの循環の不足
小さな細胞にもエネルギーが循環しなければその細胞は働けなくなってしまうのです。するとその影響は体全体へと広がります。うつとはこの状態がひどくなった状態ともいえます。
これについては、細胞膜やミトコンドリアに働きかけるようなサプリメントを飲んでいる方もいらっしゃるのではないかと思います(私もフィシオエナジェティックの施術家さんのアドバイスに従って飲んでいます)。
エネルギーを使うことの不足
体を動かさないということはエネルギーを使っていないということであり、エネルギーが生産されなくなります。その結果、エネルギー不足になりやすくなります。 酷いうつの場合は最初は休む必要がありますが、休んでいるだけではなかなか治りきらないのです。そのため、徐々に体を動かすことがうつを改善させる秘訣なのです。
「エネルギーを使うことの不足」については、きちんと認識しておかなければならないなと思いました。副腎疲労症候群の場合、激しい疲労感・倦怠感から体を動かすことが難しい場合もあると思います。実際私も、体が動かずにほぼ寝たきりで過ごす週などもしばしばです...。しかし、体調が悪くないなというときは、エネルギーを回復させるために、若干の筋トレや散歩など本当に少しで良いので、無理のない運動はしていく必要がありそうです。
2. 感情の抑圧がうつにつながる
この本で強調されているのが、感情を抑圧することがうつにつながるということです。同様の話は、以前「副腎疲労症候群とトラウマ - 辛い身体症状の原因は抑圧された感情だった?」でも取り上げました。以下、感情の抑圧について印象深かった部分を引用します。
- 精神的ストレスがあるからうつになるのではなく、ストレスを受けた時に感情を我慢して外に出さないのでうつになる
- 動物的な働きである感情を抑え込むと、動物的な働きをコントロールする能力も抑え込まれてしまいます。
- 感情は必要だから湧いてきており、全てあなたにとってプラスのものです。怒りも悲しみもあなたに必要だから起きている
- 感情が湧いてくる心に問題があるのではありません。感情を出す状況と、出さない状況の選択ができていないことが問題
- (感情を)使わない場合、筋肉を動かさずに硬く緊張させ続けます。(中略)感情エネルギーが体の中に溜まりすぎると、外に出ようとしていろいろな症状となって現れてきます。
- 感情を適切に表現できないということは自分自身を守らず自分を粗末にする行為であり、自然と自己尊重感が持てなくなってしまう
- 感情は生きるためのエネルギー(中略)感情は自律神経を動かすのに必要なエネルギー
- 交感神経の働きが必要な時には怒り・歓喜・やる気などの感情が湧き、副交感神経の働きが必要な時には悲しみ・落ち込み・安らぎなどの感情が湧いてくる(中略)怒りを十分に表現すればやる気も出てくるし、悲しみを十分に表現すれば安心してリラックスできるようになる
- 交感神経と副交感神経の両方の働きが悪い方もいます。そのような方は、「怒っちゃいけない」「泣いてはいけない」「感情を出してはいけない」と、怒りも悲しみも日頃から強く抑え込んでいるのです。すると交感神経も副交感神経も働けなくなります。これでは生きるエネルギーが少なくなって当然であり、うつになっても何ら不思議ではありません。
- ストレスをたくさん感じていると、コルチゾールがたくさん出るため体の中にコルチゾールが溜まります。コルチゾールが体内に溜まりすぎると、自律神経に負担をかけうつになりやすくなります。
- 体内のコルチゾールは、涙を流すことで体の外に排出できるのです。泣くとすっきりするのは感情を解放したこともありますが、体からコルチゾールが抜けているからという生理的な理由もあるのです。悲しみの感情エネルギーは、泣くことで解放できるとともに、副交感神経を鍛えることができます。
- むしろうれし泣きの方が悲しくて泣くよりも副交感神経を働かすのには効果的(中略)人情物やハッピーエンドで終わるような人と人との結びつきが描かれている映画やドラマを観て、涙を流すというのはコルチゾールを体外へ排出できますし、無意識に人とのつながりを体で感じることになり、今よりも副交感神経を鍛えることができるのです。
最後のコルチゾールに関する記述などは、副腎疲労症候群で悩んでいる方には特に興味深いかもしれません。コルチゾールが枯渇するといった記述はありませんが、涙を流すことで体内に溜まったコルチゾールを排出できるというのは副腎疲労症候群の改善策の一つとして試してみる価値はありそうです。『医者も知らないアドレナル・ファティーグ』では笑いを生活に取り入れることが挙げられていましたが、泣くことについては取り上げられていませんでした。
医者も知らないアドレナル・ファティーグ―疲労ストレスは撃退できる!
- 作者: ジェームズ・L.ウィルソン,本間龍介,James L. Wilson,本間良子
- 出版社/メーカー: 中央アート出版社
- 発売日: 2011/05/06
- メディア: 単行本
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また、これら感情の抑圧の話の前提として「人は人である以前に動物であり、人間脳よりも動物脳が優先される。理性よりも生命維持が、心よりも体が優先される」ということが述べられている点も重要です。
- 体調が悪くなることでネガティブになるというのは、"野生動物として身に付けていなければならない能力"
- うつは生きるためのエネルギーを残しておくため、これ以上頭や体を働かさないように、だるくさせてやる気をなくさせているのです。ですからうつは命のリミッターであり、うつにならなかったらエネルギーが枯れてしまい死んでしまうのです。
- どんな感情でもマイナスなものはなく、生命という観点からいえば怒りも悲しみも生き残るためのプラスの感情なのです。
副腎疲労症候群も、生きるためのエネルギーを残しておくための、生命としての自然な反応なのかもしれません。この動物脳に注目するアプローチは、トラウマ療法の一つであるソマティック・エクスペリエンスに通じるものがあります。この本ではまた「同じストレスを受けてもうつになる人とならない人の違い」を、ソマティック・エクスペリエンスでもよく取り上げられる、スティーブン・ボージェスの多重迷走神経理論を用いて説明している点も興味深いです。
- 作者: ピーターリヴァイン,Peter A. Levine,藤原千枝子
- 出版社/メーカー: 雲母書房
- 発売日: 2008/02
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身体に閉じ込められたトラウマ:ソマティック・エクスペリエンシングによる最新のトラウマ・ケア
- 作者: ピーター・A・ラヴィーン,池島良子,西村もゆ子,福井義一,牧野有可里
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3. 体からうつを改善させる対処法
対処法については、自分でできる呼吸法、整体法、溜まった感情を出す方法などさまざまなエクササイズが紹介されていますので、詳しくは本書を見ていただくのが良いと思いますが、以下いくつか印象に残ったものを紹介します。
姿勢が大事
- 姿勢が悪くなると重心が狂うため、体の感覚が狂ってしまい、「感覚異常」が起こります。
- 姿勢が悪いことで脳からの指令も体の各部に届きにくくなり、体が思うように動かなくなります。
- うつを改善させるには感覚を正常にする必要があり、そのためには正しい姿勢である必要がある
- (感覚が正常でないと)自分が何のために生きているのか、本当は自分が何をしたいのか、など、人生において重要なことがわからなくなったりするのです。これらも精神的なストレスにつながってくるのです。
体の姿勢を変えるだけで気分が変わる、といった話はNLPセラピーなどでも取り上げられる話ですが、やはり心と体は分けられるものではなく、体から心が変わることもあるという点はきちんと認識しておきたいところですね。
うつになりやすい「上気」という状態を改善する
上気とは、特に頭や顔など体の上の方に気(エネルギー)が上がったままになり、下半身に下がって来ないことをいい、原因としては呼吸、思考、意識の三つがあるとのことです。
- 血液やリンパ液、脳脊髄液などの流れが悪くなり、体の上の方(特に顔や頭)に溜まっている状態です。また、意識も体の上の方にある状態です。
- 体を動かしたり感じたりするよりも頭で考えることが多いと上気になり、うつになりやすくなります。
- 考えすぎて頭ばかりを使ってしまう方は、体を動かすことが必要(中略)ほんの少しの動きでもいいので体を動かすことをお勧めします。
- ストレスは「生命の危機」なので、交感神経が働きますが、一番大切な脳を守ろうとし、意識は上(頭周辺)に行きます。つまり、意識が体の上の方にある時は自然と交感神経が働きやすい状態になり、ストレスがなくても脳はストレスがあると勘違いしてしまう
- 意識が下にあることで副交感神経が働きやすくなり、心も体も回復しやすくなる状態になる(中略)まずは下半身を意識することです。例えば、自分の足の感覚を意識して感じるようにしてみて下さい。
これを読んでなるほど、と思いました。私は副腎疲労症候群でダウンする前、常に上気の状態だったように思います。頭で常に仕事のことや将来のことを考えていたり、ほとんど運動もしていなかったり...。副腎疲労症候群で悩まれている方、心当たりありませんでしょうか。
「下半身を意識する」という点は、「副腎疲労症候群と休職 - 休職の手続きや休職中の過ごし方など」でも取り上げた、流行りのマインドフルネス瞑想や歩行瞑想などが有用のように思います。
「トキシン」を摂らないようにする
私はこの本で初めて「トキシン」という言葉を知ったのですが、うつになる可能性が高くなる「毒素」のことだそうです。副腎疲労症候群との関係で捉えると興味深いです。
- アレルギー物質ほど体に症状を出さないので非常に分かりにくい
- うつを改善させたい方にはトキシンを体に取り入れないようにする必要があります
- 多くの方にとってトキシンになりえる代表的なものはカフェイン・砂糖・小麦・ニコチン
- トキシンの特徴として「摂らなくなると、摂りたいと思わなくなる」というものがあります
他にはレタス、ラベンダーオイル、洗濯洗剤などがトキシンとなっていた例もあるとのこと。副腎疲労症候群の検査で行われる遅発性フードアレルギーや重金属などは、まさにここでいうトキシンのことですね。
自分でできる、心拍数を用いたトキシンのチェック方法も紹介されていますので、ご興味のある方は本書をご覧いただくと良いと思います。
まとめ
今回の記事では、うつ病を体から治すアプローチを取り上げ、副腎疲労症候群との関係の中で見てきました。認識しておかなければならないのは、心と体は分けられないということでしょうか。うつ病も副腎疲労症候群も、一点からのアプローチでは改善するものではなく、心、体(体と言っても脳、神経、皮膚、骨格、筋肉、呼吸、臓器などあらゆる方面から)統合的にアプローチしていくほか無いということなのでしょうね。「薬でうつ病が治らない」とか「栄養療法で副腎疲労症候群が良くならない」という声をよく目にしますが、それは一方向からのアプローチではなく、全体から「ホリスティックに」見る必要があるということなのでしょうね。ただ、すべてを見てくれる病院や施術家はいないので、やはり自分自身が主治医になっていろいろ試していくしかない、ということに結局はなってしまうのでしょうね。
これを機に、自律神経整体などを検討される方は、私の体験談「自律神経整体は副腎疲労症候群に効果があるのか?ないのか?」もあわせてご参照いただくと良いと思います。